コラム『ごみは異なもの味なもの』
第11話 - 熱と温度
2009/09/16 NPO法人理事長 広瀬立成
ここで、熱力学の歴史を振り返りながら、熱、温度、エネルギー、エントロピーなどの概念を考察し、地球環境を理解するために重要な基本法則を調べてみよう。
熱とは何か?

アリストテレス
この素朴な疑問は、人間が物質世界を解釈しはじめた時から、思索の対象になっていた。古代ギリシャ時代、アリストテレスは、自然が4種の元素「火、空気、水、土」からなると考えた。この中で火と水は、「熱い、冷たい」という感覚を引き起こすもので、熱と冷とは、いわば同じ資格をもった対立物と考えられてきた。この考えはその後も長く尾を引き、17世紀頃まで、熱度とともに冷度が用いられていた。
寒暖の感覚を客観的に示すための温度計は、17世紀に実用化された。しかし、それにもかかわらず、温度の概念はいっこうに明確ではなかった。「熱を加えると熱くなる」というありふれた出来ごとを観察するだけでは、温度と熱の区別は生まれてこなかった。
18世紀中ごろのイギリスでは、ウイスキーの蒸留に必要な多量の冷却水と燃料が問題になっていた。そこで、ウイスキー産業からの要請に応じるために、化学者、J. ブラック(英、1728—99)は、熱の研究にとりくんだ。
今ここに、温度のちがった水が入った2つの容器があるとする。この容器をパイプでつなぐと、やがて2つの水の温度は一定温度に落ちつく。これを「熱平衡」という。ブラックはこの現象を取りあげ、つぎのように指摘した。「熱平衡で重要なのは、熱の均一化ではなく、熱の流れがなくなることである」と。かれは、「熱の強さ」(すなわち温度)と「熱の量」を区別しようとしたのだ。
またかれは、液体の水が氷になるとき(氷結)や水蒸気になるとき(気化)の仕組みについても解明した。氷結がおこるときには温度が変わらないにもかかわらず熱が放出され、気化においても温度は一定で熱が奪われる(これは、雪の穴のなかが暖かく、体に水をかけると涼しくなることからも理解できる)。この現象は、温度と熱のちがいを端的に示している。
氷結において、熱はたしかに存在するが、温度計で測ることができない(氷の温度も水の温度もおなじ0℃である)。この事情は、気化(蒸発)でも変わらない。ブラックは、氷結や気化にともなって出入りする熱を「潜熱」とよんだ。それは温度計で計ることができない「潜んでいる熱」という意味だ。
水が相転移するときの潜熱は、それが温度の変化をもたらさないとしたら、どこに行ってしまったのだろうか。例えば、水蒸気では、水分子は勝手に運動しているが、これは、潜熱540カロリーが、水分子の運動に使われていることを示している。
