コラム『ごみは異なもの味なもの』

第16話 - エントロピー増大の法則

2010/01/26  NPO法人理事長 広瀬立成


 ここに100℃と0℃の等量の水が入った容器があったとしよう。 それらをパイプでつなぐと、熱は温度の高い容器から低い容器へ伝わり、両者が同じ温度(50℃)になったときに熱の移動は止まって熱平衡になる。 この二つの容器とパイプによって結ばれた系(熱機関)は、熱が移動する事によって仕事をし、熱が移動しない熱平衡になれば活動を停止する(熱死)。

 物理学の基本法則であるエネルギー保存則は、この熱機関の初めの状態と終わりの状態の熱エネルギーが等しいことを保証している。 しかし、もしこの現象と反対に熱平衡状態(両者50℃)から熱が移動して最初の状態(0℃と100℃)に変わっても、片方から放出する熱量ともう片方が受け取る熱量が等しければ、エネルギー保存則には抵触しない。 もし、このように低熱源から高熱源に熱をとりだすことができれば(たとえば海から熱をとりだして、高温のエンジンを動かすことができれば)、それこそ、無限のエネルギーを獲得できることになる。

 以上の考察から、熱機関において熱の移動が一方向(高温から低温)にしか進まない理由には、エネルギー保存則や物質不滅の法則とは別の新たな基礎法則が必要になる事がわかる。それが、R.J.E. クラウジウス(独、1822—88)によって提案された「熱力学の第2法則(エントロピー増大の法則)」である。

 この法則を理解するため、もう一つ身近な例を紹介しよう。

 今ここに水の入ったガラスのコップがあったとする。そこに一滴の(水溶性の)インクを落とす。はじめ、くっきりと形が見えていた青インクは、しばらくたつと薄くなり、やがて見えなくなる。この現象も、明らかに一方通行だ。インクは拡散することがあっても、そのままではけっして集合することはない。この現象は、その変化が一方通行であるという点で、熱の伝導(熱は高温から低温に移りその逆はありえない)と似ている。この一方通行の現象を、「不可逆過程」という。

 熱機関では高熱源から低熱源への熱の流れがあるが、これはいわば熱の拡散とみなすことができる。温度とは、熱が集中している度合いをあらわすので、温度が下がれば熱はより広い範囲に拡散することになるからだ(熱はエネルギーと等価であるから、熱の拡散はエネルギーの拡散と考えてよい)。

 インキの場合は、拡散するのは物質。上の例では、熱(エネルギー)と物質のちがいはあっても、それぞれの変化には、「拡散」という共通の現象が見られる。

 1865年、クラウジウスによって定式化された「エントロピー増大の法則」は、熱エネルギーと物質について、拡散の度合いをあらわす法則である。エントロピーの語源は、ギリシャ語の「変化、発展」に起源があり、発散とか散逸を意味している。