コラム『ごみは異なもの味なもの』

第20話 - エントロピー増大と物質循環

2010/08/01  NPO法人理事長 広瀬立成


 ここでもう一度、環境エンジンに立ち返って、持続性の基本的な意味をエントロピー増大の視点から再考してみよう。

 環境エンジンは,低エントロピー資源(熱や物質)を取り入れ、エントロピーが増大する過程で仕事をしつつ、高エントロピー廃棄物を放出する。熱や物質はかならず拡散するのだから、いつかそれ以上拡散できないという極限状態(熱死)がおとずれる。

 生命が熱死を避け持続性を保つためには、生命エンジンのなかをエントロピーが流れ続けていなければならない。植物の例で見たように、熱エントロピーの流れについては、水が重要な役割をはたすことが分かった。問題は物質の流れ(拡散)だ。

 質量保存の法則がある以上、物質(質量)を地球上で生成したり消滅させることはできない(ここでいう「物質の生成・消滅」とは、化学反応で元の物質を新しい物質に変化させることを意味するのではない。化学反応では、反応の前後で質量は保存されている)。

 物質は、熱のように拡散(エントロピーが増加)したからといって、宇宙空間に捨ててしまうわけにはいかないし、大量の物質を捨てる方法もない。いずれにせよ物質は、地球システムという閉ざされた空間のなかで、使い回さなければならないのだ。

 そこで、物質を環境エンジンの資源として利用することを考えてみよう。

 物質は、環境エンジンのなかを流れながら仕事することによってエントロピーを増加させる(拡散する)。言葉を変えれば、環境エンジンに取り込まれた物質(資源)は、排出されたときには質を落とすことになる。このことは、自動車のエンジン-----ガソリンが仕事をした後、排気ガスとして放出される------を想定してみると納得できる。もし、排気ガスのような質の悪い物質を再利用しようとすれば、何らかの方法で、質の向上を図らなければならないが、人工物質の場合には、そのようなこと(排気ガスを集めてガソリンにもどすこと)は一般的には不可能である(可能であったとしても、大量のエネルギーを投入しなければならない)。つまり人工物質は、蓄積し拡散するばかりであり、いつか平衡状態となって、環境エンジンに停止をもたらす。だからリサイクルするのだという反論があるかもしれないが、リサイクルにはさらなるエントロピー排出がともない、いずれ熱死を迎えることには変わりない。

 たとえば,今世界で話題になっている温暖化ガス。

 2007年は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)や、クリントンの副大統領を務めたアル・ゴアのノーベル賞受賞などもあり、人為的気候変動(地球温暖化)について世界の関心が高まった。多くの人が、地球を救わねばならない、自分も何かしなくてはと考える時代になった。だが、考えることと行動することとには、天と地の差がある。温暖化ガス排出の主要な原因が、化石燃料やごみを燃やすことにある以上、燃やさないことへの具体的な行動こそが温暖化を解決するための第一歩であるはずだ。

 環境エンジンの持続性は、熱の放出と物質の循環が円滑に進んだときにのみ実現する。温暖化ガスの蓄積が進むことは、地球が「熱死」に向かって歩み続けていることを意味する。