コラム『エコロジー・サイエンス from「灯台」』
第8回 - カビの力
2011/10/30 NPO法人理事長 広瀬立成
(本コラムは、2010年6月より第三文明社の月刊誌『灯台』に掲載された連載コラムを再掲載したものです)
食物連鎖とは、環境エンジンのつながりであり、一つの環境エンジンからの廃棄物は、次の環境エンジンの資源になる。落葉や動物の死骸などは、人間から見たら役に立たない廃棄物であっても、ミミズにとっては大切な資源(食料)なのだ。さらに、ミミズの死骸を資源にする微生物もいる。
植物は無機物(リン、チッソ、カリウムなど)を栄養素としているから、落葉、倒木、動物の死骸などの有機物は、そのままでは植物の栄養源にはなりえない。ここに、有機物を無機物に変え植物に栄養素を提供する「菌類」が登場する。
私たちになじみの深い菌類には、キノコやカビがあるが、地球上には、零下10℃の氷雪上や100℃の熱泉中、1000気圧以上の海底など、厳しい環境下でも生息している菌類があるというから、その生命力には脱帽する。
地球上の植物が吸収する二酸化炭素の大部分は、菌類が有機物を分解する際に生じたもの。菌類のおかげで、植物類と動物類をふくむ三位一体の、持続的な食物連鎖がなりたつのだ。
三十数億年前、原始地球の水中で原始生物が誕生した。それらは、まわりの水に溶けている有機物を吸収して進化した。この「吸収」という働きを受けついできたのが菌類である。吸収に加えて光合成(炭酸ガスと水から太陽光のエネルギーを使ってブドウ糖をつくる)のしくみが発達して最初の植物類が発生したが、それとは別に、吸収に消化というしくみが加わって動物の祖先が生まれた。
植物は、菌類によって提供される無機物を吸収するが、体内で光合成を営みつつ、ブドウ糖という有機物をつくって生長する。植物が有機物を必要とするなら、なぜはじめから有機物そのものを取り入れないのだろうか。これは動物も同じで、タンパク質はアミノ酸に、デンプンはブドウ糖(単糖類)に消化してから吸収し、体内でふたたび、タンパク質やデンプンという高分子を合成する。
自然界には、そのまま吸収すると中毒をおこす高分子が存在する。生体は、その危険性を避けるために、低分子になった物質を取り込んで、必要な高分子物質(タンパク質やデンプンなど)だけを合成しているのだ。「効率より安全を」という生物の生き残り作戦には、見習うべきものがある。
